寺子屋の歩み 対話2

野島孝介の対話
今回は、製作行程についてのお話。
まずは、デザインについて

—時代にあったもの

定番になりうるものであること。
普遍的に恒久的に残って行くことを考えています。

すごい流行った漫画やドラマって時間が経つと違和感があるものがあります。
反対にいつ観ても時代を感じさせない作品も存在します。そのような色あせないようなモノ作りを目指しています。

靴のデザインにはある程度確定された基本となる形状があります。
例えば外羽根内羽根パンプスなどです。
その基本型を意識した上で、吉靴房のデザインは大きく分けて3つの系統があります。
・日本をテーマにしたコンセプトデザイン
・主に作り方に目線を向けたプロダクトデザイン
いわゆる定番型のデザイン
この3系統に共通することは、靴を表現する線を当たり前の線で形にすることです。その前提でデザイン画を描いて行きます。

奇をてらったものより、当たり前の線で表現する。
そしてデザイン画を描いてから、すぐは作り始めない。

目に見えるところに貼っておいて、具体的なイメージが濃く出来るまで置いておきます。
この工程を大切にしています。
イメージとは製作工程を確かめる作業に似た感じです。デザイン画の時点で気になる点があるといいものができないのです。

もう1つのポイントは気持ちの昂りに合わせて一気に仕上げたいということです。

あくまでも手作りのものなので、お客さんが求めてる僕の線をより深く、濃くでるように考え抜き、精神の高揚に合わせて流れるように作りたいと思っています。

—-型紙に必要な様々な要素

デザイン画の後は、型紙をつくります。

型紙は、立体にするための設計です。
靴の設計は、箱のようにミリ単位で固定するのとは少し異なります。

靴型を使った靴の場合、素材の革には、伸ばして沿わせるっていう作業が前提なのでそれを想定しながら計画します。
面がいろんな方向に屈曲するのが靴なので特有の要素が多いんです。

まず、靴型を元に型紙の原型をつくります。

原型はアルコアと呼ばれる透明テープを貼ったり、クラフト紙を使って靴型に合わせてつくります。
その原型を元に、型紙におこしていくわけです。

靴にはセンターラインがあって、人差し指の先とかかとを真上から見たラインになります。
そこを境に内側と外側を分けます。
足は内外が均等では無いので、内外それぞれ複雑で繊細な立体部分があるんです。

線のカーブ、一本の線がどれくらいデザインに影響を与えるのか。
そういうイメージを蓄積して表現します。

同じデザイン画でも型紙師によって出来る物が違うので、
僕はデザインだけでなく型紙師としての自分も意識しています。

靴によっても変わりますが、型紙のパーツは、大体ジャンルだけでも7つ(甲型、裏型、裁型、中底型、本底型、積み上げ型、芯型)ぐらいになります。
各1枚ということはあり得ないので、1足に必要な型紙はかなりの枚数になります。

教室でも始めての方は、パーツの多さに結構驚かれます。

履き口も大切な要素です。
ここが悪いと脱ぎ履き、歩行全てに影響します。

構造上、様々な工夫があってパーツの存在があります。
「履いて歩いたときにどうゆう影響があるのか」がとても大切なので。

いろんな曲線の集合体を成立させるために
利にかなった方法でなるべく手数を少なくすることは考えています。

型紙には、考えられる全ての指示も書き込みます。

サイズや折り方、穴の大きさ、のせ甲、さらい残し、製作方法など諸々必要事項全てです。

それから、革には、厚みがあります。
重ねたり繋いだりするので厚みを忘れるとずれてしまいます。
組み合わせたときの厚みも想定も大切。

その他には、靴の裏面の部品。
裏革は、出来るだけシンプルに作ります。

足は繊細なので、履いたときに違和感の無いようにしなければならない。

一カ所痛いだけでもう履けないので。全体を優しく包むようにしなければいけない。

時代によって地面が変わってますので。
履き心地も変わっていますよね。そんなことも意識します。

もちろん国によっても履物に対する接し方が違う。
西洋と日本の違いは、圧倒的に脱ぎ履きが多い。

靴屋としては脱ぎ履きの時、出来るだけひもを外して締めるということして欲しいと思います。
でも、それが大変というのもわかります。

そういう習慣も考慮してデザインしています。

実物を深く濃くイメージして、さまざまな要素を考慮するのが型紙の作業なんですね。

 

—-2つの贅沢

革を使うということは、食べ物の残りを使ってやってるので、出来るだけ無駄を無くして
なおかつ質を下げずに制作したいと思います。

例えば、
マグロのある貴重な部位しか使わない贅沢と
捨てるところが無い鯛をすべて食べる贅沢。

後者の贅沢を魅力的だと思ってます。

自分で生み出せない物を使って靴を作ってるから、無駄な物を出すのに抵抗が有るんです。

材料屋さんが閉まってしまうと何も出来なくなる。
一緒に共存していきたいと思ってます。

ものづくりは、他者の存在無しでは出来なんですね。
学ぶことが本当に多いです。

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次回は、「裁断』のお話。
対話連載では、一緒に対話してくれる方募集しています。
ものづくりにたずさわってる方是非ご連絡お待ちしています。